アートを私たちの「日常」にするために。 IT技術でアーティストの創作活動を支える

東京・港区に本社を構える株式会社アートハーバーは、アート業界に造詣の深いシステム開発会社。2023年からはWHERENESSの開発チームとして、アクチュアルのプロジェクトに参画しています。

株式会社アートハーバー 代表取締役 雨宮慎也さん

「できること」を「したいこと」に。第二のキャリアのスタートはギャラリーだった

株式会社アートハーバーを設立したのは2021年。「アートとテクノロジー」をテーマに掲げ、アート業界の方々をIT面から支援する事業を行っています。主なクライアントはギャラリーや個人のアーティストの方々。Webサイト制作や取り扱い情報の電子化、システム開発などはもちろん、パソコンの購入からセットアップ、メールアドレスの設定といった身近な業務まで、幅広くお受けしています。

私のキャリアのスタートは、医療系のシステム開発の会社。そこからかれこれ15年ほどITに関わる仕事をしています。自身のバックグラウンドがアートに結びついたのは、20代後半のことでしょうか。将来に迷い、「自分が持っている技術を社会でどう生かせるだろうか」と考えました。そこで思い当たったのが、好きだった「アート」の分野で働くことだったんです。

その後、東京・渋谷の「NANZUKA(ナンヅカ)」というギャラリーで、テクニカルディレクターの職に就きました。顧客情報のデジタル化や、作品のアーカイブ化、予約システムの構築などの業務を通して、IT技術がアート分野で生かせることを確信。この仕事をさらに拡張するためアートハーバーを設立しました。現在は、信頼できるエンジニア2名と共に事業を行っています。

アート業界での勤務経験を生かし、ギャラリーやアーティストの「欲しいもの」を形に

ギャラリーとアーティスト、共通して需要があるのはWebサイト制作です。自身の作品やこれまで出展してきた展覧会の情報は、アーティストにとってとても重要な情報です。InstagramなどのSNSを使って掲載することもできますが、それだけでは情報が流れ去ってしまう。画一的なレイアウトには限界もあります。デザインにこだわり、しっかりとしたバイオグラフィーをWeb上に構築したい、というお声はよくいただきます。

他のWebサイト制作会社にはない、アートハーバー独自の強みは、アート業界への理解を含んだご提案ができるところ。ギャラリーやアーティストのWebサイトには、「こういった情報は載せないと」というある種のフォーマットがあるんです。例えば、所属アーティストや各アーティストのバイオグラフィー、展覧会の会期やオープンレセプションの情報。作品には、年代、タイトル、マテリアルなど。「どんなことを掲載すればいいか?」というスタート地点から的確にフォローできるのが、私たちの最大の強みです。

アクチュアルとの出会いは、アートを記録するプロジェクト「ART360°」

現在、アートハーバーは、WHERENESSの開発チームとしてプロジェクトに参画しています。また、私個人はアクチュアル株式会社のCTOを務めています。

アクチュアルと関わるようになったきっかけは、NANZUKAに勤めていた頃にさかのぼります。アクチュアルが行っていた展覧会アーカイブ事業「ART360° (アート スリー シックスティー)」の一環で展示会*1を撮影したいというお話をいただき、代表の辻さんとお会いしたのが最初でした。

WHERENESSの開発チームとして声がかかったのは、2023年の2月頃です。当初はエンジニアを探しているというお話でしたが、私ひとりよりもチームのほうが高い技術を提供できるだろうと思い、アートハーバーという会社単位で参画させていただくことを提案しました。WHERENESS はすでにベータ版がリリースされていますが、さらなる機能の充実とニーズに合わせた改良のため、今後も継続的に開発を進めていく予定です。

*1 佃 弘樹 『199X』(会場:NANZUKA), 田名網 敬一『 記憶の修築』(会場:NANZUKA)

これまでにない "デザイン主導" のWHERENESS 開発

WHERENESSのプロジェクトは、「アートとテクノロジー」を掲げる私たちにとっても共感できるもの。WHERENESSを通してアート業界を支援できることは、大きな喜びです。プロジェクトに携わって面白いなと思ったのは、“デザイン主導”の開発であること。プロジェクトを率いる辻さんもデザイナー出身なので、WHERENESSはプロダクト自体のビジュアルがとてもいい。これまで手掛けてきた開発と比べても、デザインの工程に格段に時間が割かれています。*2

細部までデザインが確定した段階で開発にタスクが回ってくるので、デザインの精度が非常に高い。デザイナーの目線で作るとここまで違うのか、と驚きました。今までにない経験でしたね。

私たちはエンジニアの集まりですが、アクチュアルにはカメラマン、動画編集者、デザイナーなど、クリエイティブ色の強いスタッフが数多く在籍しています。CTOという立場でスタッフと話をすることもよくありますが、自分とは違った目線に刺激をもらえることが多いです。

*2 WHERENESSのブランディング・ロゴ は ARENCE 八木彩さん、UI/UXデザインの基本設計を NandA LLC 青山直樹さんが担当。

目指すのは、アートが「日常」にある社会。創作活動を陰で支える存在として

今後は、WHERENESSの開発も含め、現在の事業の範囲をさらに拡張させていきたいです。組織を強化することで万全の体制を整えたい。また、将来的には、自社開発のサービスを生み出したいと考えています。作品や展示会、顧客などの必要な情報を一括で管理できるサービスを構築し、ギャラリーや美術館、個人のアーティストに幅広く提供したい。

「アートとテクノロジー」という会社のテーマを伝えると、「コンピューターを用いた作品制作をされてるんですか?」とよく聞かれます。そういったご要望にもお応えしていきたいですが、いま私たちが一番注力しているのはアートの裏方。アーティストの創作を陰で支える役目です。

ギャラリーやアーティストの中には、「どうやってインターネットを契約したらいいのかわからない」「メールアドレスを作ってお客さんとやり取りしたい」といった、基本的なところでお困りの方も多いです。私たちはそういう方々に対して支援を行い、活動の“とっかかり”を作りたいと思っています。その結果として、世の中にアーティストが増え、街のギャラリーが増えたらいい。

こういった事業を通して叶えたいのは、人々の創作や鑑賞の機会を増やし、「アートが身近にある社会」を作ること。今は「アート」という単語自体にどこか高尚なイメージがありませんか。チケットを買って美術館に行くことは、「非日常」であって「日常」ではない。これを変えたいんです。人々が自分の街のギャラリーに気軽に立ち寄るように、もっと日常のなかにアートが溶け込んでほしい、と感じます。アートを媒介にして人と人が言葉を交わし、知見が広がっていく。人生の選択肢が増えていく。それはとても豊かなことだから。ギャラリーやアーティストの創作活動を支え、社会のアートの「絶対数」を増やすこと。それが、私がアートハーバーで達成したい目標です。

株式会社アートハーバー

https://artharbor.com/

アートハーバーでは、アートの世界でITスキルを生かしたいエンジニアを募集しています。

ライター:土谷 真咲